エピソード41地域の居場所
2023年12月21日 UP
埼玉県越谷市の住宅街にあるコーププラザ越谷※では、組合員の皆さんや地域の皆さんが気軽に集い、子ども向けから大人向けまでの定期講座や季節に合わせた短期講座が行われている。
冬のある日、午後3時過ぎにランドセルを背負って黄色い帽子をかぶった、小学校中学年の女の子がやって来てこう言った。
「こんにちは……。ちょっと待たせてもらってもいいですか?」
この日は子ども向けの講座はなかった。入り口すぐの受付にいた職員の一人が藤本陽子さん。藤本さんは元々はここの定期講座の受講生で、縁あって3年前から働き始めた。組合員になってからは25年が経つ。
「あれ?どうしたの?」と藤本さんが尋ねると、学校に家の鍵を忘れてきてしまい家の中に入れない、両親とも仕事中で不在なのだという。小学校ではこの日、別学年の保護者向け行事が行われていて、帰ったら学校には戻らないようにと先生から言われていたのだった。名前を聞いて調べてみると、幼稚園生の頃から隔週土曜日開催のバレエ教室に通っているみさきちゃんだった。
「『困ったことがあったら、コープさんのところに行きなさい』ってお母さんに言われているんです」とみさきちゃんは言った。
「バレエ教室で見かけるときはおだんご頭で、そのときと感じが違っていて、名前を見るまでいつも来ている子だってわかりませんでした」と藤本さんはそのときを振り返る。
バレエ教室の登録情報からお母さんの携帯電話番号に電話をかけてみたがつながらなかった。職員同士で相談して、付き添って家の鍵を取りに行ってもよいか小学校に電話をすることにした。コーププラザ越谷の職員であることを名乗り事情を話すと、電話口の先生に、取りに戻ってもいいが職員用の玄関から入るようにとお願いされた。
「職員の中で私が一番土地勘があったので、みさきちゃんと小学校へ行きました。最初どこが入り口なのかわからなかったのですが探して見つけて、みさきちゃんが呼び鈴を鳴らして先生と2人で教室へ鍵を取りに行きました。帰り道は2人で走ったりしながら帰ってきて、『さようなら』と言ってみさきちゃんは家に帰っていきました」
翌日、みさきちゃんのお母さんがお礼を言いに、お菓子を持ってやって来た。職員みんなで「ここは子ども110番の家にも登録していますから、気になさらないでください」と対応した。
次のバレエ教室の土曜日、いつものようにおだんご頭で元気よく「こんにちは」と受付にあいさつをするみさきちゃんの様子を、藤本さんは見守っていた。
「みさきちゃんとお母さんに、困ったときに頼れる場所と思ってもらえていたのがうれしかったです。たまたま自分が場所もわかったから対応しただけです。 私はまだここの職員になって3年ですが、コーププラザ越谷はここに30年近くあって、長く勤めている先輩方が、受講生の皆さんや保護者の方々とよい関係を築いてきたから、そんなふうに思っていただけたのだと思います。地域の皆さんや組合員の皆さんにとっての居場所のひとつだと思うので、この築いてきた信頼関係を途切れさせないよう、楽しく通い続けられるように仕事をしていきたいです」と藤本さんは笑顔で語った。
コーププラザも、宅配センターも、店舗でも、皆さんに頼られるコープの拠点として、これからも地域に存在していきたい。
※組合員の皆さんの様々な活動が地域に根付き、活発になり、より幅広い活動が実現できるように置かれた地域の拠点。地域の集まりやイベントなども開催しています。コーププラザがないエリアもあります。
illustration:Maiko Dake
※このお話は、実際にあったコープに関わる人と人との交流を取材し、物語にしています。登場する人物の名前は仮名の場合があります。
こちらも読んでみる
職員との心に残る出来事を随時募集しています。