エピソード40父の笑顔
2023年10月19日 UP

群馬県内で暮らす小野
「父は昭和の父親そのもので、頑固で家事もほとんどやらない人でした。あまり愛想もなく、どの写真もへの字口で、あんまり笑ってないんです。父が亡くなったのは、私の下の娘・志保が生まれてまだ3カ月でした」と飛鳥さん。
飛鳥さんは夫・
小野さんの家は実家も自宅もコープの宅配を利用している。飛鳥さんは冷凍の離乳食や子ども用歯ブラシ、彩保ちゃんのお菓子など、特に子どもに関するものの注文で重宝している。コープの広報誌も愛読している。
「実家でコープの宅配を受け取るのは父の役割でした。父は定年退職後も週4日仕事をしていて、母も仕事をしていて、宅配の商品が実家に届く月曜日は父が休みの日だったので、母はとても助かっていたんです」
真さんの葬儀がまだ終わっていないタイミングで、次の月曜日がやってきた。
飛鳥さんが実家で父の代わりにコープの宅配を受け取った。「来週から置き配にしてくださいって、コープさんに伝えて」母からそう伝言されていた。
配達はコープデリ高崎センターの佐藤雄一郎さんの担当だった。飛鳥さんは志保ちゃんを抱いたまま玄関で対応し、母の言葉を伝えた。佐藤さんは驚いた様子で、「ショックです。いつもお父様には良くしていただいて……」と一緒に悲しんでくれた。
佐藤さんは志保ちゃんを見て「本当にかわいいですね」と言った。飛鳥さんは「初めましてー」とまだ話せない志保ちゃんに代わって答えた。すると佐藤さんが「初めてじゃないんですよ。1カ月くらい前、お目にかかっているんです」と笑顔で言った。

1カ月前?!……そういえば、ちょうど1カ月前、長女と市役所へ行く用事があり次女を父に見ていてもらったことがあった。父にとっては、孫と初めての2人きりの留守番だった。そのときも「お孫さん、かわいいですね」と佐藤さんが言うと、「そうなんだよ」と
母にそのことを話すと、「きっとお父さんは、コープさんに志保を見せて自慢したかったんだよー」と2人は束の間、笑顔になった。
子どもたちは日々成長し、できることが急激に増える時期。寝返りをうったよ、離乳食を食べ始めたよ、おすわりができるようになったよ、彩保はお姉ちゃんになってよく志保の面倒を見てくれているよ……、何かできるようになるたびに、父に伝えられないことがとても寂しい。
悲しみは時間が経っても消えない。そんなときに飛鳥さんは佐藤さんが教えてくれた、孫を抱いて幸福そうだったという父の笑顔を思い浮かべる。それがいつも、ほんの少し救いだ。
illustration:Maiko Dake
※このお話は、実際にあったコープに関わる人と人との交流を取材し、物語にしています。登場する人物の名前は仮名の場合があります。
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