エピソード13心が通 った瞬間に
2021年4月22日 UP
茨城県内で大学生活を送った奈良岡
大学3年のある日、いばらきコープのインターンシップ(就業体験)で配達の同乗を経験し考えが変わった。
「びっくりしたんです。一軒一軒、配達先の組合員さんと話しながら、その人に合ったサービスや商品について話していて。聞かれたことにもしっかり答えて。組合員さんと職員ではあるんですけど、それを超えたつながりを見た気がしたんです」
配達先で会えない人とも、小さなこともカードに書いてやり取りし、コミュニケーションを取っていた。自分もこんなふうに働きたいと思った。
奈良岡さんは2020年4月にいばらきコープに入職。鹿嶋センターに配属され、2カ月後には1人で配達できるようになった。しかし、どうやって組合員さんとの会話の糸口を見つければいいのかがわからず悩んでいた。仕事を始めて3カ月、日々の業務の中で人と話すということのむずかしさを痛感していた。相手が何を好きでどんな人なのか、それがわからないと親身になって話すことはできない。
「7月に先輩の井上さんの配達に同乗させてもらい、勉強することにしたんです」
井上さんの配達先に、青森出身の鈴木さんという女性がいた。80歳を超えているというが、若々しく背筋の伸びた素敵な人だった。
「出身が青森と聞いていたので、短い時間でしたが鈴木さんにお目にかかって青森の話をしました。春は弘前公園の桜、夏はねぶた祭り、秋は
翌週、配達から帰った井上さんに「鈴木さんから、奈良岡さんにって」と手渡されたもの。それは青森の伝統的な刺し子のひとつ、こぎん刺しのランチョンマットだった。びっしりと細かな刺繍が施された青と緑2枚のランチョンマット。鈴木さんが手作りしたものだった。「青森の話ができてうれしかった。暑いから体調に気をつけてね。また会えたらうれしいです」と手紙も添えられていた。
奈良岡さんは小学5年生のとき、学校でこぎん刺しのコースターを作ったことを思い出した。根気のいる作業だった。大切なものをいただいた。
「そのとき鈴木さんと初めてきちんと心がつながった気がして、すっごく励まされました」
さらにその翌週、鈴木さんに書いたお礼を井上さんに託した。そして、鈴木さんと話せたように、配達で会う皆さんと話せるようになりたいと思った。
その後、配達作業のスピードを上げることを心がけ、直接手渡しできる方とは少しでも話せる時間を増やし、自分で作る『担当者ニュース』では、共通の話題になりそうなことも考えて書いている。試行錯誤は続く。
「茨城に住んで5年、私はこの先もここで仕事をしていきたい。日本の未来を明るく変えるのは、人と人との結びつき、思いやりではないか。最近、そんなことを考えます。入職してからずっとマスク生活なので、いつかマスクをはずして皆さんと話せる日が来たらいいな」と奈良岡さんは笑った。
人の心を救うことができるのは、いつだって誰かのあたたかい心。奈良岡さんがそうだったように、今日もどこかの配達先で、誰かと誰かが心を通わせているはずだ。
illustration:Maiko Dake
※このお話は、実際にあったコープに関わる人と人との交流を取材し、物語にしています。登場する人物の名前は仮名の場合があります。
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