エピソード8働くことのできる喜び
2020年11月19日 UP

コロナ禍によって、2020年は誰にとっても忘れられない1年になろうとしている。
もちろん
「コープのお客さまはお会計の始まりに『お願いします』、終わったら『ありがとう』って言ってくださる方がいたりして、丁寧だなって驚いた。はっとしました」
彼女がミニコープにたどり着くまでの経緯はこうである。9年勤めた駅前スーパーでの品出しの仕事は、後半の5年間、母の介護をしながらだった。母を看取り、仕事を辞めてひと休みしたあと、3月から大学生協での仕事を見つけ働き始めた。そこは娘が通う大学院の生協で、研究者たちがお弁当や飲み物を買いに来る小さな店。こぢんまりとした雰囲気が好きになり、ずっと働けるといいなと思っていた。
それを新型コロナウイルスが台無しにした。働くほとんど誰もが、それまで通りには仕事ができなくなってしまった。
理子さんの仕事場は、4月いっぱいは勤務日が週1日に減り、とうとう店を閉めることになってしまったのだ。※大学生協連はコープデリ連合会へ、仕事ができなくて困っている人々がいるので、協同組合連携で臨時雇用ができないかと打診した。異例のことだった。
「新しい仕事に慣れたところでした。もうあそこで働けないのか……寂しいと同時に、働けないと困る。そう思っていたら、コープみらいのお店で仕事ができるって声をかけていただいたんです」
理子さんはミニコープで働く決意を固め、電話で店長との面談代わりのあいさつを済ませた。
※全国大学生活協同組合連合会の略
彼女を受け入れた阿部店長は当時を振り返ってこう言う。
「コロナ禍で、店はどこも忙しくなっていました。私たちもとても助かりました。彼女はわからないことは積極的に質問して、早く仕事を覚えようと努力してくれました」
一方、理子さんのなかには大きな葛藤があった。
「スーパーでの仕事はできると思ったけれど、とにかくレジが怖かった。皆さんとってもたくさんお買い物するし、『ほぺたんカード』やらチャージやら、私が働いていた大学生協とは全然違ってちんぷんかんぷん。レジをやるならば辞めたいくらいでした。でもそんな私を見て、娘が『がんばってみなよ』って。そうだなって思った。一緒に働く皆さんも『わからなかったら聞いていいよ』って親切で、うれしかった」

理子さんの仕事は品出しが中心だが、今ではレジ打ちもできるようになった。
「私、何十年もスーパーで買い物していて『お願いします』なんて言ったことなかったなって。レジの仕事もやるようになって、自分が買い物をするときも、あの人のレジは遅そうだから並ぶのやめようとか考えなくなったし、私も『お願いします』と『ありがとう』って言うようになりました」
年配者の重たいかごを運ぶ手伝いも、気軽に声をかけ助けられるようになった。「ありがとう」と言われると、自分も気持ちがいい。
流れに身を任せて訪れた思いがけない縁と気づき。
「仕事ができなくて困っている人は大勢いると思う。まだこの先、どうなるかはわからないけれど、私はここで働けて良かった」そう言って笑う理子さん。
コープみらいの制服がすっかり板についている。
illustration:Maiko Dake
※このお話は、実際にあったコープに関わる人と人との交流を取材し、物語にしています。登場する人物の名前は仮名です。
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