人と人 つながりの物語 コープデリグループの組合員数は約500万人。組合員の皆さんの数だけ、物語がある。その物語を毎月一つお届けしていきます。描いているのは皆さんのくらしとコープデリの接点。あなたの物語はどんな物語ですか。人と人 つながりの物語

エピソード7あさって、雨になりませんように

2020年10月22日 UP

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エピソード7のイラスト

敬子さんの日曜日。冷蔵庫を開けてにらめっこする。あと2日分の献立を決め、次に真理子さんがやってくるとき何を買おうか……真剣に考え、リストを作る。そして週の天気予報を確認する。楽しみな火曜日、雨になりませんようにと願う。

現在87歳の敬子さんは栃木県のとある町、50年近く暮らした家で7年前に夫を看取り、それからはひとりで暮らしている。移動店舗の販売担当・塩田真理子さんとの出会いは、2019年夏の終わり。ある日、『とちぎコープがご自宅前に伺います』というチラシを持って家にやって来た。秋から毎週火曜日に、家の辺りにトラックでやって来て店を開くという。僻地へきちというほどでもなく、国道も近く駅からもさほど遠くない。こんな場所でも移動店舗って来るんだ……。と最初に敬子さんは思った。なんとなく親近感が持てて、行ってみようと思った。

敬子さんは40歳のころから寺社巡りを続けて歩くのは好きだったが、夫の三回忌を終えた直後に背骨を圧迫骨折してしまい、回復はしたものの、歩くのが大変になってしまっていた。

コンビニエンスストアは、若者の足なら家から徒歩5分のところにある。でも、高齢者向けの手押し車を押しながら、舗装が悪い道を通るのは大変。家の前に流れる川沿いのフェンスにつかまりつかまりしながら、遠回りして行かなくてはならない。やっとの思いでたどり着いても野菜や果物はあまり売っていない。スーパーに行く日には、タクシーを利用するしかなかった。

※一部エリアで実施しています


コープの移動店舗は、敬子さんの生活の救世主だった。

家から徒歩3分ほどの場所に来るようになった移動店舗。火曜朝、コープの店舗で小さなトラックに1000点近くの商品をめいっぱい詰め込み、元気な笑顔で真理子さんはやって来る。スピーカーから流れる童謡のメロディーが到着の合図だ。

来るのは毎週午前11時、20~30分停車して他の地域へ移動していく。生鮮食品・惣菜・菓子・日用雑貨、冷凍食品もアイスクリームだってある。リクエストをすれば、なかった商品も次回に持って来てもらえる。ほしいものが誰かと一緒だったときには、自然と譲り合い。お客さん同士も楽しく話している。雨の日や、どうしても調子が悪いときは、家の前を通るときに顔を出して買い物リストと代金を渡し、販売の合間に真理子さんが商品を見繕って、移動時に自宅まで商品を持って来てくれる。

敬子さんのお気に入り商品は、ひきわり納豆、もずく、バナナ、牛乳、冷凍のさばのみぞれ煮など。たまご、大根、ピーマンは少量ずつでいい。真理子さんが毎月手書きで作っている『移動店舗だより』は、全部クリアファイルに入れて取ってある。しっかり毎回読んで、気になる箇所には蛍光ペンで線を引いてから大切にしまっておく。


「今の私は、わずか半年間のうちに真理子さんと何十年もの付き合いのような気持ちになってる。真理子さんは動きが堂に入ってる。私は商人の家に生まれたから、子どものときから商売人を見てきたけど、真理子さんも商売をしている人の家に生まれたのかしらって思う。笑顔がステキ。わからないことを聞くと答えもすごくわかりやすい。しかも手を動かしながら1人で3役くらいやってる。双子の男の子のお母さんでもあるから、きっと子育てだって大変だろうなって思うけど。

最近、移動店舗に集まる人が増えてきたの、あの人だからだと思う」

火曜日に買い物をして、冷蔵庫に食べ物がたくさん入ると、いつも敬子さんの心は安らぐ。

エピソード7のイラスト

「この気持ちって、年を取らないとわからないかもしれない。コープさんが命をつないでくれている。軒先まで私の命を支えてくれる車がやって来てくれる」

食べることは生きること。老いとは、できないことが増えてくることなのだと敬子さんは感じている。だけど、誰かに頼むのではなくて、自分で選び買い物し、自分で料理をして、自分で食べたい。彼女にとってはそれが生きること。

移動店舗がやってくる日を楽しみにしながら、敬子さんは穏やかに暮らしている。

illustration:Maiko Dake

※このお話は、実際にあった組合員の皆さんとコープ職員との交流を取材し、物語にしています。登場する組合員のお名前は仮名です

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