人と人 つながりの物語 コープデリグループの組合員数は約500万人。組合員の皆さんの数だけ、物語がある。その物語を毎月一つお届けしていきます。描いているのは皆さんのくらしとコープデリの接点。あなたの物語はどんな物語ですか。人と人 つながりの物語

エピソード2思い出してくれてありがとう

2020年04月16日 UP

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エピソード2のイラスト

「私にとってはさ、生協さんはみーんないい人なんだけど、こしさんは、配達に来てくれた最初の日からふところに飛び込んでくるみたいな、かわいい人だったんだよ。心がやさしい越さんなんだ」

寿ひささんの周りは、いつも笑い声があふれている。誰よりよく笑うのは寿子さん本人だ。越さんは、以前寿子さんの自宅へコープデリ宅配の商品を届けていた職員。大学生の娘さんがいる元気な人だ。

寿子さんは家の辺りにりんご畑が点在する長野県に住んでいる。夫婦2人ぐらしで、3人の子どもたちはとうの昔に巣立った。年齢を聞くと、「もう10日ばかり前に会っていたら74だったのにねー、75歳になってしまったよ。後期高齢者の仲間入りだ」と冗談めかして話す。寿子さんがコープデリ宅配を知ったのは40代半ばの頃。当初は近所の友人が頼んでいたのに便乗して、いくつか注文をお願いするという利用の仕方だった。いろいろなものを注文してみたくて自分で頼むようになってから25年が経った。今も毎週2時間くらいかけて隅々まで宅配のカタログを読み、注文する商品を決めている。一番のお気に入りはペットボトル入りの「ブレンド茶」。毎日のお風呂の脱衣所にまで持っていくほどお気に入りだ。

「22歳で嫁いで53年、うちの人は手作りのものしか食べないのよ。買ってきたお惣菜だとすぐ気が付いて、食べるのをやめてしまう。ところがコープの『ミールキット』ってあるじゃない。あれだけは1から作っていなくても食べてくれる。切ってあるし無駄も出ない、量もちょうどいい。炒めるだけで完成だから。

私の母は料理が好きで、いろんなものを教わった。私も料理を作って人に出すのは好きなんだけど、夫は365日3食しっかり食べるからね。ミールキットに作り方の紙が入ってるでしょ。あれを作った順番に保管してて、このあいだ注文したかな?食べたかな?って忘れちゃうから、いつどの料理を出したか確認して見ていくの。1カ月くらい前だと、ああそろそろいいかなとかね。
昔より種類が増えたね。袋から出すところを見られないようにして、週に2回はミールキットを使ってる。そのくらい楽したっていいよね?」といたずらっぽくまた笑う。寿子さんの話はノンストップだ。

※カット済み食材・調味料・レシピがセットになった短時間で料理が完成するキット

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元気いっぱいに話す寿子さんだが、体が痛くて痛くて、とてもつらい時期があった。彼女の背中には20本のボルトが入っている。せきついの手術をしたのは2年前のことだった。
「越さんに、私これから1カ月入院するから、6月いっぱい宅配の注文を止めないとならないの。でも7月には帰ってくるからさって言ってたら越さんは『えー』ってびっくりして。心配してくれてました」

ところが入院は長引いてしまった。ひと月が過ぎた頃、越さんは寿子さんが退院したかと思い、仕事の合間に自宅を訪ねた。しかし彼女は家に戻っていなくて、寡黙なご家族からも事情を聞くことはできなかった。やがて寿子さんは退院して家に戻った。杖をつかないと歩けなくなり、食欲もなくて体重は13kgも減ってしまった。

退院直後のある日、自宅の呼び鈴が鳴り寿子さんは玄関口へ出た。するとそこに越さんの姿。宅配は休んでいるから手ぶらだ。
「寿子さん!」「越さん!」「良かったー、でもやせちゃったね」
再会の瞬間、2人は自然と両手を広げて、お互いを抱きしめ合った。「こんなに心配してくれる配達員さんがいるなんて……と思って涙が出ちゃった」と話す寿子さんは涙声になっていた。

再会から2カ月後、越さんは配達のコースが変更になった。最後の配達の日、2人は一緒に記念写真を撮った。越さんは寿子さんに手紙を渡した。「いつまでもお元気で」と書かれていた。
「また寄ってねと言いました。たまーに顔を見せてくれることがあります。生まれた町も隣で、なんか娘のような気がするの」

寿子さんの今の目標は、杖がなくてもまっすぐに歩けるようになること。毎週コープのカタログを隅々まで読み、お気に入りの商品を注文するのが楽しみの一つだ。
「越さんにはたまにでいいから会えたらうれしいな」

少女のように目をキラキラさせた笑顔で、ときには涙声で、越さんとの出会いと別れを話してくれた寿子さん。もしかしたら出会ったことで心が豊かになっていたのは、越さんも同じだったのかもしれない。

別れは終わりではない。あらためての人間同士の"再出発"なのだ。

illustration:Maiko Dake

※このお話は、実際にあった組合員の皆さんとコープ職員との交流を取材し、物語にしています。登場する組合員のお名前は仮名です

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