エピソード18先の見えない不安のなかで
2021年9月16日 UP

千恵さんはコープの宅配を利用し始めて10年たつ。家族4人ともコープ牛乳とりんごジュースが大好物、毎週注文する。次男の
入学直後、首都圏では新型コロナウイルス感染拡大のため緊急事態宣言が出され、大学の入学式は無期延期。授業も全てオンライン、入学時、迷わず入部した野球部も活動禁止になってしまった。
「大学に入ったら友達もたくさん作りたいし、野球もがんばりたいし、彼女もできたらいいな、って暁はとっても楽しみにしていたんです。それが『つまらない』って連絡してきた。何しろ1日も登校していないのだから同級生の友達もできないですよね。オンライン授業も、家事をやるのも初めて。5月になると『家から出たくても出られなくなってしまった。人間って人と話さないと、話せなくなるんだね……。何日も人と話さないから、言葉が出てこなくなっちゃった』って言い出した」と千恵さん。

そんななか、週に一度やってくるのがコープの配達担当の
最初は「大学生なんだー、どこにも出かけられないから面白くないわね」という会話から、会うたびに「大学はどうですか?」と聞いてくれた。受け答えに心に寄り添うようなやさしさがあった。友廣さんがくれる担当者ニュース※〈まりえ通信〉も家族を大事にしている人柄が伝わってくるものだった。
「あるとき、『コープの人どう?』って暁に聞いたら『めっちゃいい人だよー! 今、唯一話せる人』って言ってました。私も息子の家に行ったときに〈まりえ通信〉をもらって帰って読んだら、それが楽しくて。それからいつも息子に『〈まりえ通信〉取っておいて!』って頼んでます」と千恵さん。
友廣さんと暁さんの会話はいつも2~3分だったが、大事なのは時間の長さではなかった。知らない土地でひとり暮らしを始めた暁さんには、友廣さんと言葉を交わす時間が、自分が人間社会に存在することを実感できる瞬間だった。
「家族と暮らしていたら『コロナ禍での生活が大変だね』って言い合えたと思うけど、それもできなかったから、友廣さんのことを聞いて、1人で暮らし始めた息子のことを気にかけてくださる方がいるんだなってほっとした」
6月になると野球部の活動が始まり、少しずつ友達もでき、登校して受ける授業も一部始まった。
「コロナ禍で配達する皆さんも、大変で不安だと思います。そんななかで、笑顔で毎週変わらずに配達に来てくれて、さらに励ましてくれるなんて。感謝しています」と千恵さんは笑顔で言った。
私たちはコロナ禍で強いられたこれまでとは違う生活で、当たり前だと思っていた〈普通の日常〉が、尊いものだったと思い知った。〈あの人に会いたい〉、〈こんな時間を誰かと過ごしたい〉、そんな夢を見ている人は多いのではないか。人は人のなかでこそ、人間らしく生きられるのだ。
※ 配達担当者がおのおの手作りし、定期的に配付するニュース
illustration:Maiko Dake
※このお話は、実際にあったコープに関わる人と人との交流を取材し、物語にしています。登場する人物の名前は仮名の場合があります。
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