人と人 つながりの物語 コープデリグループの組合員数は約500万人。組合員の皆さんの数だけ、物語がある。その物語を毎月一つお届けしていきます。描いているのは皆さんのくらしとコープデリの接点。あなたの物語はどんな物語ですか。人と人 つながりの物語

エピソード4あなたの声を信じてみたの

2020年07月23日 UP

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エピソード4のイラスト

今から11年前。晶子さんが生後5カ月のコウくんを抱え信号待ちをしていたときのこと。
「そこは音声信号がない横断歩道で、普段は車の音や人の気配で判断して渡っていたんですね。その日、コープの商品を配達中だった児玉さんが私を見かけたんです」

児玉さんは「信号、青ですよ」と晶子さんに声をかけた。
「『お子さんかわいいですね、にこにこしてますよ』って。『ありがとうございます』って私は答えました」--晶子さんは全盲なのだ。

「私は20歳のときに、夫は7年前に全盲になりました。私の方が全盲としては先輩です」

いつも明るいトーン、ちょっとハスキーな声の晶子さん。中学・高校の同級生だった夫と28歳で結婚して16年。しっかり者のコウくん(11歳)と、はにかんだ笑顔がかわいいひかりちゃん(7歳)の4人家族だ。夫は会社員、晶子さんは月曜日は都立高校の福祉科で障害学を教え、火曜日から金曜日は点字図書館で校正の仕事をしている。ときどき、子どもたちが通う小学校に呼ばれて授業をすることもある。

児玉さんは「コープって知っていますか?実は、私はコープの配達担当でして、おむつとかトイレットペーパー、買うの大変じゃないですか?」と話を始めた。まさに買い物時、大きなものを1つでも買うとあとは白杖はくじょうしか持てなかった。お米を買う日はタクシーを使った。買い物は大変だった。
「今ちょうどコープの宅配について説明できる時間があるんですけど……」児玉さんは遠慮がちに続けた。

今の時代、知らない人は結構怖い。誰でも信用していいというわけではない。だけど晶子さんには、児玉さんの声、しゃべり方の中にあるまっすぐな熱意と優しさが伝わってきた。この人は信じられる。そう思って、自宅に招き入れ、説明を受けてその場で加入した。

利用を始めてみると、商品カタログに載る商品を読み上げるリーディングサービスがあり、毎週届くCDを聞くだけでよかった。「その音声では、商品や値段だけじゃなくて、国産であるとか、どんな商品かの説明もあって、本当に感動しました」と晶子さん。「番号さえ控えておいてくださったら、私が伺ったときに注文書を書きますから」と児玉さんは言ってくれた。選んで買えることがとてもうれしかった。その後担当者が変わっても、皆同じように対応してくれた。「児玉さんの声は、いつも明るい声でした」と晶子さんは懐かしむ。

※リーディングサービス…目の不自由な方向けに、コープデリ宅配の商品カタログの内容を音声にしたものをお届けするサービス


5年後、隣町である今の家に引っ越した晶子さん家族。ひかりちゃんが生まれ1歳になり、育児休業から仕事に復帰した。子どもたちは別々の保育園に通っていた。

ある夕方、ひかりちゃんを抱えてコウくんが待つ保育園へ向かう中、晶子さんは道に迷った。
「その日は結構な雨で、傘に当たる雨の音で周りの音が全然聞こえなくなってしまったんです。早くコウを迎えに行かなくちゃって焦れば焦るほど、方向がわからなくなってしまって……」

晶子さんは途方に暮れていた。不安で仕方なく、誰かに頼りたい一心だった。そこへ配達途中の児玉さんがトラックで通りがかったのだ。
「『お久しぶりです。晶子さん、児玉ですー!下の子、女の子が生まれたんですね。雨だから大変~』って突然現れたんです。私は、『そうなんです、ところで児玉さん、ここどこですか?』って言いました」

児玉さんは話しかけて初めて、道に迷っているのだと気づいた。何年も会っていなかった児玉さんが、車を降りて声をかけてくれた。そして、わかる道まで連れて行ってくれた。

コウくんが成長し小学校2年生になったあたりから、宅配の注文書を書いてくれるようになった。
「もっと前から書きたがってくれたんですが、説明の仕方とか、私に何が必要かっていう判断ができるようになったかなっていう頃から任せることにしました。『これ、今日ちょっとお得だよ』とか、『これお母さん好きそうだけど今日は安くはないな』とかね。そんな風にしっかり宅配カタログを見てくれます。私もコウも和食や和菓子が好きだから、『これたのもうよー』なんていう話もしながら。コウは男の子だし、もしかしたら反抗期が来て注文を書いてくれなくなっちゃうかもしれないけど、そうしたらひかりちゃんに交代かなって思っています」

エピソード4のイラスト

子どもたちが成長し、たくさんのことを手伝ってくれるようになった。もう児玉さんには会っていない。だけど晶子さんはときどき思い出す。

生活が変わり会う人が変わっても、誰にでも時折思い出す人がいる。誰かのささやかな思いやりが、長く人を力づけることもある。


晶子さんは、子どもたちに明るく、人に分け隔てなく優しくできる子に育ってほしいと願って子育てをしてきた。

「私たち親じゃなくても、妊婦さんや杖をついている人や困った人を見つけたら、声がかけられるような心の持ち主に自然と育ってくれていることがうれしいです。

昔は、現在よりも障害者は差別されていた時代がありました。特に地方ではね。今の子どもたちは全くそうではなくて。通勤の道で毎朝子どもたちと会うんですね。子どもたちにとっては、『コウのお母さんはすごいんだよー!見えないのに歩いてるし、見えないのにごはんを作ってる!』って。スーパーマンみたいに言ってくれる。私ってある意味ヒーローだなって思える。だから、私も子どもたちの前にどんどん出て行きたい。そうしないと障害について子どもたちが知る機会も持てない。子どもたちがまず私たちを理解して、そこから大人につながっていったらいいなって思っています。私の住む町では、知らない人でも皆さんとても親切なんですよ」

晶子さんは幸せそうな笑顔で言った。

illustration:Maiko Dake

※このお話は、実際にあった組合員の皆さんとコープ職員との交流を取材し、物語にしています。登場する組合員のお名前は仮名です

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