人と人 つながりの物語 コープデリグループの組合員数は約500万人。組合員の皆さんの数だけ、物語がある。その物語を毎月一つお届けしていきます。描いているのは皆さんのくらしとコープデリの接点。あなたの物語はどんな物語ですか。人と人 つながりの物語

エピソード20手を差し伸べること

2021年12月16日 UP

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エピソード20のイラスト

〈コープみらい地域クラブ ハーモニー〉※1の物語は29年前から始まった。小さな歴史である。

1993年、埼玉県坂戸市で暮らす菊池千代子さんがコープの組合員になって10年。子育てもだいぶ手がかからなくなったところで、組合員仲間で福祉ボランティアグループを立ち上げることになり、「一緒にやりませんか?」と誘われた。30人ほどが集まり、朗読講座の勉強会が開かれた。
「滑舌良くしゃべるにはどうしたらいいか、聞き取りやすい区切り方など勉強しました。それで、『コープの広報誌を読んで録音してみない?』って提案したんです」と菊池さんは当時を振り返る。

こうして当時の広報誌『にじのひろば』※2を読み上げる活動が始まり、録音された音声が目の不自由なリーディングサービス利用者※3に届けられることになった。
「集まって、担当ページを決めて順に朗読しました。聞いてくれる人がいたらいいなって思っていました」

1999年、メンバーは4人に減っていた。仕事、家庭の事情、体調、辞めていく事情はさまざまだった。残ったのは、菊池さんのほかに、清野せいの和子さん、佐々木そめさん、高野八千代さん。
「3人とも年上で、とってもやさしかった。“しっかりしたお姉さん”という存在でした。4人になって、4カ月に一度、1人が1冊丸ごと担当することにしました」

録音作業は大変だったが、楽しくもあった。菊池さんは笑ってこう言う。
「録音は自宅でやるんですが、途中、飛行機やバイク、犬の鳴き声などの音が入ってしまうんです。学校から帰宅する子どもの声が入らないように玄関に『録音中』って貼ったこともあったな。夫は『ごくろうさま』って声をかけてくれ、家族はみんな協力してくれました」

エピソード20のイラスト

2001年、高野さんが引っ越し、〈ハーモニー〉は3人になった。活動はそれからも20年間続いた。そして、終わりは突然やってきた。

2020年7月、闘病を続けていた佐々木さんが亡くなった。清野さんと2人で佐々木さんのご家族にお悔やみを伝えに行った。そのとき、清野さんは「もうすぐ80歳になるから引退しようと思う」と菊池さんに言った。

2020年12月、佐々木さんが亡くなられて半年後、清野さんが亡くなった。80歳の誕生日を迎える直前だった。コロナ禍で、最後のお別れもできなかった。

ハーモニーのメンバーは、いろんなことを相談しながらランチをしたり、一緒に芝居を見に行ったり、仲間であり友達だった。彼女は1人きりになって、年度終わりの3月号で活動を終えることに決めた。
「3月号に『今月で最後です』と録音しました。涙声になってしまい何度か録り直しました」

しばらくするとコープを通してお便りが届いた。それは真っ白な紙に一行『ハーモニー 音訳ありがとう』と点字で書かれたもの。目の不自由な利用者からだった。
「ハーモニーの活動をして、困っている人が知らない人でも迷わず手を差し伸べられる自分になりました。初めはどうすればいいのかなって思ったけど、『その人が出す手を、受ければいいだけよ』って昔々、清野さんが教えてくれたんです」

菊池さんは現在、福祉施設の生活支援員としての仕事と習い事で充実した日々を過ごしている。

20年前に引っ越した高野さんは、引っ越した先で、今も朗読のボランティア活動を続けているという。

※1 地域コミュニティの活性化を目的とし、テーマを決めて活動する3人以上のグループ

※2 当時のさいたまコープの組合員広報誌

※3 目の不自由な組合員の皆さんが利用する宅配の商品カタログの音声読み上げサービス

illustration:Maiko Dake

※このお話は、実際にあったコープに関わる人と人との交流を取材し、物語にしています。登場する人物の名前は仮名の場合があります。

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