なるほど!食卓の安全学

トレードオフ

食品のリスクはさまざま。
特定の問題にこだわりすぎると、別の問題が起きるので気をつけて

豆乳は牛乳の代わりではない

 先日、テレビ番組に、気になるお母さんが登場していました。牛乳の放射性物質が気になるから、と豆乳を子どもに飲ませていたのです。
 豆乳は、タンパク質や脂質が豊富なすばらしい食品です。「大豆イソフラボン」という女性ホルモンに構造がよく似た物質を含んでおり、体の中で女性ホルモンに似た作用をもたらす可能性があるとされています。そのため、骨粗しょう症などへの効果が期待されており、厚生労働省の「特定保健用食品」(トクホ)制度で、「骨の健康に役立つ」という表示を認められている製品もあります。
 しかし、それだけに注意も必要。食品安全委員会は、トクホの評価で大豆イソフラボンの安全性を検討し、Q&Aを公表をしています。
 高濃度の大豆イソフラボンを動物に与える実験で、生殖機能への影響を示す研究結果が出ていることなどから、「子どもや妊婦については、大豆イソフラボンを日常的な食生活に上乗せして摂取することは推奨できない」としているのです。
 豆腐や納豆などを普通に食べる分にはなんの問題もありません。でも、それに加えてわざわざ、というのは子どもや妊婦にはお勧めしない、ということです。
 子どもは牛乳をよく飲みます。私の娘は牛乳好きで、幼い頃はうっかりすると1日に1リットル近く飲んでしまうほどでした。豆乳は牛乳とよく似ていますが、代わりになるものではなく、牛乳のような飲み方は子どもには勧められません。私はテレビを見ながら「牛乳のように、ぐいぐい飲んでしまわないかな? 大豆イソフラボンのことを教えてあげたい」と心配になりました。

バランスのよい食事が健康に結びつく

 一方の改善に努力していると、他方に問題が生じてしまう現象を「トレードオフ」といいます。食生活において、特定のリスクを低減しようとすると、知らないうちに別のリスクが上昇している、という現象は、しばしば起きることが知られています。放射性物質対策でそんなことが起きなければよいのですが。それに第一、原乳(原乳を集めて製品化したものが牛乳です)は現在では、検査結果のほとんどが、測定不能なレベル。つまり10Bq/kgを下回りゼロに近いのです。
 やっぱり基本はバランスの良い食生活。放射性物質のリスクのみに注目するのでなく、ほかのことにも注意して、健康を守りましょう。

15歳以上の大豆イソフラボン摂取量の目安
【出典:食品安全委員会の大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&Aの図を一部改変】
15歳以上の大豆イソフラボン摂取量の目安を図式で説明
松永和紀さんの写真
松永和紀(まつながわき)

京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。新聞社勤務を経てフリーの科学ライターに。著書に「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」など。科学的根拠のある食情報を発信する消費者団体「フーコム」を4月に設立。FOOCOM.NETサイトへ

【広報誌2012年1月号より】